グロービス経営大学院は「創造と変革の志士」となるリーダーを育成・輩出することをミッションに、社会人教育に取り組んでおられます。
MA(Adobe Marketo Engage、以下Marketo) / CRM(Salesforce)の導入によりデータ活用が活発になる反面、部分最適化や「データの揺らぎ」が顕在化し、経営の課題になっていました。この課題を解決するために、グロービス経営大学院は曖昧さを1mm も残さずに「見るべき指標の定義」を行い、データ・ガバナンスを実現されました。CData Sync は、そのデータ分析基盤を支えています。
プロジェクトを主導されたCRM チームの本山氏、佐藤氏にお話を伺いました。本記事では、前編でグロービスによるデータ活用改革について紹介し、後編ではどのようにCData Sync が本プロジェクトを支えるために活用されているかを紹介します。
前編:より良い学校運営に向けたデータ活用プロジェクト
CData 中嶋:本プロジェクトがはじまった背景を教えてください。
本山氏:学校として、学生の皆さんをサポートする精度を高めるべく、2018年頃にSalesforce やMarketo といったCRM・MA ツールを導入しました。そこから約3年が経過し、顧客接点のデータが蓄積されるようになり、入学検討者や学生一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションが実現できるようになりました。
CData 中嶋:旧態的なイメージの強い「学校」という組織と「CRM・MA ツールの駆使」という考え方に少しギャップを感じてしまう私は考えが古いのでしょうか?
本山氏:本学では、「テクノベート」というコンセプトを重視しています。これは、テクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語です。テクノロジーにより企業活動が急速に変化する中、経営者は経営の知識・理論に加え、テクノロジーの定石を理解して、新たな発想でビジネスを刷新していかなければなりません。また本学もテクノベートを体現すべく、受講生向けのポータル整備、資料公開や課題提出のデジタル化、そして授業のオンライン化など多様な取り組みをしています。「デジタルデータの活用による学生のエクスペリエンス向上」はまさに私たちCRM チームが取り組むべき課題と考えています。
各キャンパスの学校運営メンバーにも「データを活用しよう」というマインドが強くありました。各キャンパスで、いろいろなデータを用いてより良い運営をすべく皆が努力していました。しかし、その中で以下のような課題が見えてきました。
「データを自由に使えるようになった」からこその3つ課題
課題#1. データ分析に時間がかかり学生とのコミュニケーション時間の捻出に苦戦
本山氏:学校の運営に必要な数値を手作業で算出することに膨大な時間を費やし、学生とのコミュニケーションの時間を捻出するのに苦戦していたことが1つ目の課題でした。Salesforce やMarketo の導入以降、学生の受講データやWeb ページのアクセス履歴なども参照しながら、グロービスの受講に役立つ情報を適切なタイミングでご案内できるようになってきました。しかし、そういった活動のPDCA を回すために、レポートを作ってプロセス数値を見える化する必要があったのですが、それらの作業をスタッフが手作業でやっていました。
CData 中嶋:でも、各キャンパス・各チームでレポートを作成できるような方がいらっしゃるというのは素晴らしいですね。
本山氏:そうですね。経営大学院のスタッフとして、データの活用には高い感度を持っています。しかし、データを自由に活用できるようになったがために、数値の算出に時間を取られ、肝心の学生とのコミュニケーションに充てる時間を捻出するのに苦戦していました。
課題#2. 各地域のキャンパスごとにデータが部分最適化され、データ定義の不一致が経営の妨げに
本山氏:2つ目の課題は、算出した数値の定義が各キャンパスで微妙に異なっており、数値の認識合わせに時間がかかっていたことです。例えば、グロービスに通うことを検討されている方に向けて、実際の授業を体験できる体験クラス&説明会を頻繁に開催しています。そして、こういった体験クラス&説明会を改善していくべく、説明会の申込数や出席率など、様々なプロセス数値を算出しています。しかし、「出席率」という数値ひとつとっても、説明会参加を事前にキャンセルされた方を分母に含めるか含めないか、キャンパスによってバラバラでした。
CData 中嶋:それは、本当によくある話です。弊社内でもディスカッション中に「そのデータのデータソースは何で、何を含むんだっけ?」という確認はよく行われています。
本山氏:新型コロナウイルスが流行する前は、リアルキャンパスで受講する学生が圧倒的に多く、各キャンパスの商圏に適した数値の見方がなされていました。
しかし、コロナ禍によりオンラインで受講する学生が急激に増え、キャンパス横断で連携する業務が増えてきました。その際に、各キャンパスで使っている数値の定義が微妙に異なっていたことが浮き彫りになり、数値の認識合わせに時間がかかっている状況でした。
課題#3. ツール横断でのデータの可視化ができていなかった
本山氏:ツールを横断してデータを可視化できていなかったことが最後の課題です。本学ではSalesforce やMarketo など様々なシステムを導入しています。確かに、これらのシステム導入によって、顧客データが蓄積されるようになりました。しかし、Salesforce とMarketo を組み合わせるなど、ツール横断でデータを可視化することができていませんでした。Salesforce には「学生が参加したイベントや受講のデータ」がたまっており、Marketo には「ご案内したメールの開封/クリック状況や、Web ページでの行動履歴」が蓄積されている。これらのデータを繋げ、より学生をサポートする質を上げていけないか、という課題感がありました。しかしMarketo のActivity Log のデータは膨大で、BI ツールから直接データを取得することができず、大容量のデータをどうするかに悩んでいました。
CData 中嶋:たしかにMarketo のログはデータが膨大ですよね。
佐藤氏:今までも何度かMarketo のログデータの取得は試したのですが、BI ツールからの直接取得や、EAI ツールでの取得を試みても、データ量が多すぎて連携処理が動かない状況でした。ここがボトルネックになり、MA -CRM 横断の可視化・分析ができていませんでした。
テクノベートを自ら実践するデータ活用の改革プロジェクトの開始
CData 中嶋:これまで各キャンパスに適した活動をしていたが、コロナ禍を機にキャンパス横断で連携する重要性が増し、上記のような課題が見えるようになってきたということですね。そこに対して、いつ頃からプロジェクトとして手を打ちはじめたのでしょうか?
本山氏:2020年8月にマーケティングチーム主導で、上記の課題を解決してキャンパス横断でデータ活用・データ経営を進めるプロジェクトが始まりました。
課題解決の4つのポイント
ポイント#1. 経営層から「もうExcel は見ない」との強いコミットメント
CData 中嶋:とても大きなデータ活用の改革プロジェクトですが、どのように進められたのでしょうか?
本山氏:このような組織横断プロジェクトには、経営層のコミットメントが欠かせません。本学のリーダーに「基本的にExcel のデータはもう見ません。今後の数値報告はTableau で行ってください。」という全組織向けのメッセージを出してもらいました。「グロービス自身が”創造と変革の志士”であり続けないと駄目だ」という、共通の価値観や企業風土があったため、比較的コンセンサスは取りやすかったです。
CData 中嶋:やっぱり、経営層による改革へのコミットメントは大変重要です。しかも「Excel のデータはもう見ません。」という言葉は象徴的でとてもわかりやすいものだと思います。
ポイント#2.データの品質担保
本山氏:2つ目のポイントは、データの品質を担保することです。「Garbage In, Garbage Out」と言われるとおり、元となるデータが整っていなければ後続の作業が全部無駄になってしまいます。分析の軸となるべきデータがしかるべきフィールドに入っているか、データの重複はないか、データ同士がしっかりと紐付いているかなど、分析を阻害するようなデータが生まれないように事前対策と、汚いデータが発生したときにはどう対処するかという事後対策を整理しました。
CData 中嶋:本当にすばらしいアプローチです。結局データが汚くて分析時に人の手による修正がまかり通ってしまうと、結局は手作業から逃れられなくなってしまいます。
本山氏:例えば、事前対策として、Salesforce に新しい項目を1個作るときでさえも「その項目が本当に必要なのか、重複する用途の項目はすでにないか」などを膝詰めで議論をしました。オペレーションの標準化も同時に進めました。間違ったオペレーションをしたときに、Marketo からアラートが飛ぶ仕組みを構築しています。また、事後対策として「顧客の重複データをマージする会」を定期的に開催してデータ・クレンジングを行っています。このように徹底してデータの品質を担保する取り組みを実践しました。
ポイント#3. 「1mm の曖昧さもない、見るべき指標の定義」
本山氏:3つ目のポイントは、見るべき指標の定義に1mm の曖昧さもない状態を目指すことです。まずは、「見るべき指標の鳥観図」を作成しました。どの指標が何処に紐づいているのかを鳥観図として表現することで、サービス改善に向けて追うべき指標同士のつながりや全体像を明らかにしました。
鳥観図を作ったあとは、1つひとつの指標の算出ロジックを厳密に定義し、誰でも参照ができる社内Wiki(Confluence)で公開しています。イメージとしては「誰が読んでも、同じ条件でSalesforce のレポートを組めるレベル」で、曖昧さや解釈のズレが一切生じないくらい具体的に記載しました。
そして、指標の定義を決めたあとは、1つひとつの指標に対して優先順位をつけました。例えば、時期によって毎日見るべきものは「優先度:高」、週次で見るべきものは「優先度:中」、四半期に1回の振り返りのタイミングでしか見ないものは「優先度:低」に設定していきました。また、社内Wiki に記した指標ごとにTabelau のURL を貼って、スタッフが目当てのダッシュボードにすぐたどり着ける状態にしています。
CData 中嶋:指標の定義書は本当に大事です。しかも具体的にどんなオブジェクトから作ったデータかが明確に書いてあります。これで、「このデータの定義は?」という不毛なやり取りがなくなりますね。
本山氏:これらの定義をベースとしたTableau ダッシュボードは、顧客の(リード・申込・事後フォローまで)を横軸、利用する対象組織(経営・マーケティング・学生募集企画など)のマトリックスにまとめ、誰が何のためにどのダッシュボードを見ればよいかをわかりやすく表現しています。スタッフの皆さんには「データを作ったり、どのデータを見るべきかを悩んだりするところに時間を使わないでください。Tableau ダッシュボードを開き、データをどう解釈してサービス品質向上に活かすかの議論に時間を使っていきましょう。」と伝えています。
CData 中嶋:これは現場の方々にとってとても使いやすいですね。同じダッシュボードではなく、組織内のロールによって異なるダッシュボードにされているのは本当にすばらしいです。
ポイント#4. 現場スタッフの巻き込み
本山氏:4つ目の最後のポイントは、「鳥観図」、「指標の定義」、「ダッシュボードのデザイン」を決める議論に、必ず現場のスタッフにも参加をしてもらったことです。冒頭にもお話したように、チームやキャンパスによって、指標の定義がバラバラでしたので、各チームやキャンパスからそれぞれ代表者をアサインしたうえで、議論を進めました。
すべての指標の定義を決めきるのに半年以上かかりましたが、ユーザとなる現場スタッフが「自分が決めた指標の定義」だと当事者意識をもってもらいやすくなります。そして、当事者意識が強いスタッフにアンバサダーになってもらい、各現場チームにダッシュボードの使い方を浸透させていきました。
CData 中嶋:各チームにTableau のアンバサダーを作られたんですね。
本山氏:そうです。すると各チームがアンバサダーを中心に、自発的にチーム内でのダッシュボード活用のオンボーディングも担うようになっていきました。Tableau の見方や指標の算出ロジックについての質問の多くは、各チームのTableau アンバサダーが対応してくれています。
後編:改革を支えたデータ分析基盤へのパイプラインツール『CData Sync』
本プロジェクトでは、 SQL Server やSalesforce に格納された業務データや、Marketo のメール配信ならびにアクティビティデータを、データ分析基盤であるAmazon Redshift に集約する必要がありました。そのためのツールとして、CData Sync が採用されています。Redshift に統合されたデータは指標の定義に沿って加工され、Tableau のダッシュボードへと成形されています。
CData Sync は、そのパワフルかつシンプルなパイプライン機能により、本プロジェクトを下支えしています。
Challenges:
- キャンパスごとに部分最適で活用されていたデータを、全キャンパス横断で最適化
- 外注運用のEAI ツールでの処理の内製化と、Marketo の膨大なアクティビティデータの連携
Solutions:
- 全キャンパス横断でのデータ基盤の再構築、見るべき指標の再定義、脱Excel によりデータ経営を実現
- CData Sync によるデータ基盤へのデータ収集オペレーションを内製化、差分更新にも対応
1. 全社向けのデータ基盤の再構築、見るべき指標の再定義、脱Excel によりデータ経営を実現
CData 中嶋:上記のようなデータ活用プロジェクトでCData Sync が果たした役割を教えてください。
佐藤氏:CData Sync を使うことで、データソースであるSalesforce・Marketo などのアカウントと、データの同期先であるRedshift のアカウントを接続し、ジョブを作成するだけで簡単にデータパイプラインを作成できました。Redshift 側へのデータテーブル作成までCData Sync が自動で処理してくれるので、すぐにデータ収集を実現できました。
本山氏:CData Sync により技術的なボトルネックをクリアできたことが、先述の「4つのポイント」による課題解決につながっています。CData Sync 導入により、Salesforce やMarketoを はじめとしたツールを横断して、データをスピーディーに集約できました。これまでもデータ収集の仕組みはあったのですが、その仕組み構築を外注していたため、組織内で期待されているスピード感でのデータ活用ができていませんでした。しかし、CData Sync により素早くデータ収集できる仕組みを内製化でき、経営層やスタッフにも「このプロジェクトは成功する」と確信してもらうことができました。おかげで、先に述べた「もうExcel は見ない」という経営層のコミットメントを概ね実現できました。
2. CData Sync によるデータ基盤へのデータ収集オペレーションを内製化、差分更新にも対応
CData 中嶋:CData Sync をお使いになった感想はいかがですか?本ツールを選定する際に検討したポイントも教えてください。
佐藤氏:Marketo のデータ量(アクティビティログ)がかなり多く、タイムリーなデータ連携を実現できていませんでした。この課題を解決できることがデータパイプラインツールを選定する一番のポイントでした。実際に使ってみると、驚くほど簡単にSalesforce やMarketo のデータを同期できました。また、将来的に他プロダクトで使用しているツールとの連携も増えることを想定し、接続できるサービス数が多いツールを選んでおく必要がありました。他のデータパイプラインツールと比較し、「接続サービスが豊富である点」「データの洗い替えなどの転送方式がシンプルである点」「連携頻度を簡単に調整できる点」「相対的にコストパフォーマンスに優れている点」に鑑みて、CData Sync を採用しました。
CData 中嶋:評価いただき、ありがとうございます。元々お使いのEAI ツールと比べ、CData Sync にできることはSaaS →DWH の一方向の同期だけですが、同期のシナリオを絞ることで簡単に使えるようにしている製品なので、その点を評価いただけてとてもうれしいです。現在のCData Sync のご利用状況はどのようなものでしょうか?
佐藤氏:CData Sync の利用状況ですが、システムによって連携頻度を変えて、データをレプケーションしています。Salesforce とSQL Server は日時で更新しています。Marketo のデータ は、30分おきに同期しています。
3.データ連携処理の省力化により、「人」が行うべき仕事にリソースを集中
CData 中嶋:CData Sync のインタビューでしたが、CData Sync はデータ収集に特化したツールなので、それ以外の領域について貴社の取り組みのお話をたくさん聞けて大変勉強になりました。
本山氏:CData Sync 導入により、従来大きなリソースと時間がかかっていたデータ収集プロセスを、大幅に省力化できました。これにより本学は、各現場スタッフとの「見るべき指標」のすり合わせ、Tableau アンバサダーの立ち上げなど、「絶対に機械には置き換えられない仕事」にフォーカスできました。
CData 中嶋:「データ活用・自動化を進め、人が行うべき仕事にフォーカスする」というお話には全面同意です。
今後の展開について
CData 中嶋:CData Sync のご利用の今後の展開やCData へのご依頼事項がありましたら教えてください。
佐藤氏:データ活用に完成はありません。より多くのツールのデータを横断的に分析できる状態を作っていきたいと思っています。例えば、Google Adsense の効果やSNS(Twitter、Instagram)の効果測定を個別のツールで計測しているのですが、これらのデータもすべてTableau で可視化したいです。そうすることで、データの民主化(より多くの人がデータを見て分析できる状態)を作り、さらに顧客への価値提供を向上させていく動きにつなげていきたいです。
CData 中嶋:ご期待に沿えるよう、引き続き製品の強化、接続先の拡充、データソース利用の手引きとなるドキュメントの提供をいたします。
CData Sync について
CData Sync(https://www.cdata.com/jp/sync/)は、400以上のSaaS / DB のデータをデータ分析基盤にノーコードで複製できるデータパイプライン製品です。Salesforce やMarketo をはじめとする幅広いデータソースに対応し、企業のデータ分析基盤構築を実現します。ご関心がありましたら、ぜひお問い合わせ(https://www.cdata.com/jp/contact/)フォームからご相談ください。製品プロフェッショナルがサポートをいたします。