データ基盤用語集



データ活用を支える土台、ETL パイプラインとは?

データ活用を支える土台、ETL パイプラインとは?

企業は、日々蓄積される膨大な量のデータを理解し活用するという継続的な課題に直面しています。データの管理と処理は非常に複雑な作業であり、専門的なツールが必要になります。ETL(Extract、Transform、Load)は、こうした作業を容易にするために設計されたプロセスであり、多様なデータソースからデータを抽出して分析に適した形式に変換し、分析基盤となるデータベースやデータウェアハウスにロードします。

ETL パイプラインはプロセスを自動化することでデータ処理を効率化し、エラーを最小限に抑え、レポーティングや分析・活用のスピードと精度を向上させます。この記事では、ETL パイプラインについてその機能を説明し、データ管理にもたらす利点を紹介します。

ETL パイプラインとは?

ETL パイプラインはデータパイプラインの一種であり、企業データを管理・活用するために設計された一連のプロセスです。ETL パイプラインは、クラウドサービス、Web サイト、IoT デバイス、データベースなど複数のデータソースからデータを抽出することから始まります。

パイプラインに取り込まれるデータは未加工で構造化されていないことが多いため、フィルタリング、マスキング、集計などの一連の変換を経て、利用目的に適した形式やフォーマットに変換する必要があります。変換プロセスの後、データはデータウェアハウスやデータレイクのようなストレージシステムにロードされ、分析、レポーティング、機械学習・AI の学習などに活用されます。

ETL パイプラインは、次の3つのアクションで構成されます。

Extract(抽出)

抽出はETL パイプラインの最初のステップです。データは単一のデータソースから取得されることもあれば、複数かつ異なる種類のデータソースから取得されることもあります。これらのデータソースには、データベース(SQL とNoSQL の両方)、データレイク、Web サービスのAPI、CSV やExcel スプレッドシートのようなファイル、リアルタイムのストリーミングデータ、IoT デバイスなどが含まれます。

抽出段階では、さまざまな形式や構造を持つ生データを取得します。このステップでは、さまざまなデータソースに接続してデータをクエリし、変換ステップでさらに高度な処理を行うためのデータを抽出します。このステップにおける課題の多くは、データソースへのアクセスに使用されるデータ形式やプロトコルの潜在的な違いに対処することです。

抽出には、主に差分抽出(partial extraction)と完全抽出(full extraction)の2つのアプローチがあります。完全抽出では、データソースのデータをすべてパイプラインに取り込みます。このアプローチはシンプルですが、特に大規模なデータセットの場合、リソースを大量に消費して処理を妨げる可能性があります。一方、差分抽出ではデータソースから新規データまたは更新データのみを抽出します。この方法はより効率的で費用対効果が高く、特に継続的・定期的なデータ更新を行う場合にはリソースへの負担が少なく済みます。差分抽出について詳しくはこちらの記事をご確認ください。

抽出されたデータは未加工の状態であることが多く、非構造化または半構造化データを含み、不整合や重複、エラーが含まれている場合もあります。このような生データを変換し、クリーニングを行いフォーマットする必要があります。

Transform(変換)

ETL パイプラインの変換ステップでは、データの品質を向上します。このステップでは、形式が異なったり構造化されていなかったりするデータを、整合性のあるクリーンで利用可能な形式に変換します。変換プロセスに含まれる一連の操作は、データが品質基準を満たし分析に適していることを確認するために設計します。

変換における主要な処理としては、エラーを修正して不整合を解消するデータクリーニングと、多様なデータ形式を標準化する正規化があります。さまざまなデータソースから取り込まれたデータはこのプロセスで統合され、標準化されたデータセットが作成されます。集計も変換プロセスの重要な要素であり、より管理しやすく分析に適した形式に要約するために用いられます。変換プロセスの別の構成要素であるデータエンリッチメントでは、必要に応じて追加のコンテキストや情報をデータに追加し、データをより価値のあるものにします。

変換には、データ形式の変更や複数フィールドの結合など、データの再構築も含まれます。変換プロセスは全体を通して、分析ニーズやビジネスの目的に合致するようにデータを調整するために欠かせないものです。変換プロセスは完璧ではなく、ヒューマンエラーによってこの段階で見落とされる問題が発生する可能性があります。変換が成功するかどうかは、ETL パイプライン全体の有効性に直接影響します。

Load(ロード)

ロードはETL プロセスの最終ステップであり、処理および変換されたデータを最終的な転送先(通常はデータベース、データウェアハウス、データレイク)に転送します。このステップでは、データを効率的かつ安全に格納し、簡単にアクセス、クエリ、分析できるようにすることが重要です。ロードのプロセスはデータの扱いやすさ・ユーザビリティに直接影響するため、綿密に計画して実行する必要があります。

ロードでは、特に複数のデータソースからのデータを統合する場合において、データの整合性と一貫性が極めて重要となります。データの重複、競合、エラーなど、変換によって見落とされた可能性のある潜在的な問題をシステムで処理する必要があります。ここで重要になるのが転送先のパフォーマンスです。転送先にロードされるデータを効率的に処理できない場合は、ロードプロセスがシステムのデータ取得・分析機能に悪影響を与える可能性があります。

データが正常にロードされると、BI、分析、レポーティングツールでアクセスして利用できます。

ETL とは別の方法であるELT(Extract、Load、Transform)は同じステップで構成されていますが、プロセスの順序が変わり、データを抽出した後にロードしてから変換します。どちらの方法が適しているかは、こちらの記事(英語)でご確認ください。

ETL パイプラインがもたらす5つのメリット

>モダンなETL パイプラインはデータ管理において非常に重要な役割を果たし、データの品質と精度を大幅に向上させ、運用効率を高め、手間のかかるデータ処理作業を自動化することで時間を節約します。高いスケーラビリティで増大するデータ量を効率的に処理できるため、企業は、詳細な分析とレポーティングを行う上で不可欠なデータセキュリティとコンプライアンスを維持することができます。

データ品質の向上

ETL のプロセスは、データの品質と精度を大幅に向上させます。変換ステップでは、データのクリーニングと標準化により、エラー、重複、不整合を取り除きます。これにより、転送先のシステムにロードされるデータの信頼性と正確性が保たれ、データドリブンな分析や意思決定には欠かせないものとなります。データソースのデータの問題を修正し、データ形式の一貫性を維持することで、ETL パイプラインは高品質なデータ管理を実践できるようにします。

効率化の向上

ETL パイプラインは、特定のユースケースに適したデータを準備するというコストの高いタスクを自動化することで、データの準備に伴う手作業を減らし、アナリティクスチームの業務負荷を大幅に減らすことができます。ETL パイプラインのおかげでユーザーはデータ分析や解釈などのより付加価値の高い業務に集中できます。ETL プロセスは、異なるデータソースから取り込まれる大量のデータを効率的に処理することができ、データ統合を効率化して、手作業に伴う複雑さを軽減します。これにより、大幅な時間の節約、業務効率化、運用コストの削減を実現できます。

データの増大に対応するスケーラビリティ

ETL パイプラインは、企業が成長し、データの量や複雑さが増すのに応じて設計し、拡張することができます。こうした柔軟性の高さを活用することで、増大するデータ処理需要を効果的に管理し、効率的かつ制約がない状態でデータを活用できますj。

データセキュリティとコンプライアンス

ETL プロセスは、データセキュリティとコンプライアンスを強化する上で重要な役割を果たします。ETL パイプライン構築の目的の1つは、データの暗号化、アクセス制御、監査証跡を組み込むことで、セキュリティを向上させた状態でデータを管理・変換することです。GDPR(EU 一般データ保護規則)、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)、CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などのデータ規制が適用される業界では、ETL プロセスは通常、機密情報をコンプライアンスに準拠した方法で取り扱うように構築されており、データのプライバシーと整合性の維持に活用されます。

高度なデータ分析のサポート

データを統合して分析に適した形式に変換することで、ETL パイプラインは強固なデータ活用基盤の構築を支援します。ETL パイプラインは、企業データを統合し、活用できる形式に変換することで、包括的なデータ分析、詳細なレポーティング、実践的なインサイトの抽出を実現します。クリーンで一貫性のある、適切に構造化されたデータを利用することは、データドリブンな意思決定を効果的に行う上で極めて重要です。

ETL パイプラインとデータパイプラインの比較

データパイプラインとETL パイプラインを同じ意味で用いる人もいますが、両者には大きな違いがあります。「データパイプライン」は、さまざまなデータの移動や 処理タスクを含む包括的な用語です。ETL パイプラインはより特化したプロセスで、データを抽出し、適切な形式に変換し、分析用にデータベースやデータウェアハウスにロードして分析用のデータを準備することを目的として設計します。主な違い以下のとおりです。

目的とスコープ

データパイプラインは、あるシステムから別のシステムへデータを移動させるすべてのプロセスを含む広い概念です。これには、データの収集、処理、保存など幅広いプロセスが含まれ、リアルタイムのデータフローや、単なるデータロードも含まれます。ETL パイプラインは、さまざまなデータソースからデータを抽出し、適切な形式に変換し、分析のためにデータウェアハウスやデータベースにロードするプロセスに焦点を当てた、データパイプラインの一種です。

データ処理

データパイプラインには、ETL に限らずさまざまな種類のデータ処理が含まれます。例えば、バッチ処理、リアルタイム(またはストリーミング)処理、単純なデータ転送などが挙げられます。ETL パイプラインは、データの抽出、変換(クレンジング、集計など)、ターゲットシステムへのロードという3つの重要なプロセスを実行します。

アプリケーション

企業が構築するデータパイプラインは、即時の分析を目的としたリアルタイムのデータストリーミングからシステム間の単純なデータ移行まで、さまざまなシナリオを想定しています。一方、ETL パイプラインは、分析目的のためにデータを準備し処理する必要があるシナリオで、通常はバッチモードで使用します。

柔軟性と複雑さ

データパイプラインは、設計と利用の際の柔軟性が高い傾向があり、要件に応じて単純にも複雑にもなり得ますが、ETL パイプラインは変換ステップがあるために複雑なものとなり、データが分析用に正しく処理されることを確実にするロジックが必要となります。

転送先

データパイプラインの同期先は、データベース、データレイク、SaaS アプリケーション、クラウドストレージなど多岐にわたりますが、ETL パイプラインは、主にデータウェアハウスや分析・レポーティングに設計された特定のデータベースにデータをロードすることに重点を置いています。

ETL パイプラインのユースケース

ETL パイプラインは、さまざまな業界で広く使用されており、それぞれに独自のアプリケーションがあります。

  • 包括的な患者ケアのためのデータ統合。ETL パイプラインを活用して、電子カルテ、検査結果、患者からのフィードバックなどのさまざまなデータを統合し、包括的な患者のケアと研究を支援します。
  • リスク管理を目的とした金融データの統合。金融・銀行業界では、ETL パイプラインを活用して取引記録、顧客データ、市場情報を統合し、効果的なリスク管理や不正行為の検知に不可欠なものとして活用されます。
  • 売上および顧客情報の集計。ETL パイプラインにより多様なチャネルからの売上、顧客行動、在庫データを集計することで、トレンド分析や在庫管理、ターゲットを絞ったマーケティング戦略の立案に活用されます。
  • 通信およびネットワークデータの分析。通信企業は、ETL パイプラインを活用して膨大な量の通話データ記録やネットワークパフォーマンス指標を分析し、サービス品質とカスタマーエクスペリエンスを向上しています。
  • 人工知能と機械学習。航空業界では、ETL パイプラインを利用して飛行パターン、GPS(全地球測位システム)、気象情報、航空機のパフォーマンス指標など、多様なデータを集計・前処理し、それらをAI / ML モデルに入力して予知保全や運用の最適化に役立てています。
  • 製造業の生産およびサプライチェーン。製造業では、ETL パイプラインを活用して生産システムや機械類からデータを収集し、予知保全や品質管理、サプライチェーンの最適化をサポートしています。
  • 教育および学術業績の管理。教育機関は、学生の記録や学術業績のデータを管理するためにETL パイプラインを活用し、事務報告や教育研究を円滑に進めています。
  • 公共データの管理。ETL パイプラインは、政府機関が国勢調査の詳細、公衆衛生統計、経済指標などの主要な公共データセットを統合し、政策立案や公共サービスの向上を支援します。

ETL パイプラインのベストプラクティス

ETL パイプラインは、データをアクセスしやすく、正確で、実用的なものにするための強力なツールです。しかし、プロセスを円滑に進めるためにはいくつかの手順が欠かせません。

  • 品質を保証する:プロセスの各段階でデータを定期的に検証してクリーニングしましょう。データの正確性、完全性、整合性のチェックを実装し、高いデータ品質を維持します。
  • より効率的に:変換のロジックを最適化し、処理にかかる時間とリソースの消費を最小限に抑えます。効率的なアルゴリズムを使用することで不要なデータ変換を回避できます。
  • スケールを計画する:ETL パイプラインは、増大するデータ量と複雑さに対応できるようスケーラブルに設計しましょう。パイプラインが将来的なデータの増加に対応できるようにするために、柔軟性と拡張性は不可欠です。
  • エラー処理を実装する:堅牢なエラー処理メカニズムを実装してETL プロセスで発生した問題を捕捉して対処します。また、トラブルシューティングと監査の目的で常に包括的なログを保持するようにしましょう。
  • パフォーマンスを最適化する:ETL パイプラインのパフォーマンスを常時モニタリングし、継続的に最適化を行ってスピードと効率を向上させます。
  • セキュリティを大切に:ETL パイプラインが、データの暗号化、セキュアなデータ転送、アクセス制御などのデータセキュリティのベストプラクティスを遵守していることを確認しましょう。
  • ドキュメントを整備する:データソースの詳細、変換ロジック、移行先スキーマなど、ETL プロセスに関する詳細なドキュメントを作成しましょう。ドキュメントは定期的に更新して妥当性を維持します。
  • データ抽出方法を検討する:データを差分抽出するか、完全抽出するか、どちらが適切かを判断します。差分抽出は処理するデータ量を減らすことで全体のパフォーマンスを向上させ、コストを削減できます。
  • テスト・検証を行う:開発中とデプロイ前にETL パイプラインを厳密にテストし、期待通りに機能することを確認します。パイプラインの検証には実際のデータシナリオを使用し、その有効性を確認しましょう。
  • 徹底的に自動化する:ETL プロセスにおける反復的で定型的なタスクを自動化することは、手作業によるエラーを減らして時間を節約することに大いに貢献します。

ここで挙げたベストプラクティスの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。すべてのETL パイプラインの成功は、それらがいかにうまく構築され、維持されているかにかかっています。

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